岩波文庫新版『西遊記』の訳

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現在、岩波文庫の『西遊記』新版が刊行中です(現在、第6巻まで刊行。今月17日には7・8巻が刊行されます)。

第1巻から第3巻までは旧版では小野忍先生が訳されていましたが、新版では旧版の4巻以降と同じく中野美代子先生の訳になっております。つまり第1巻から第3巻までは「新訳」なのですが、4巻以降は旧版でも中野先生の訳でした。岩波のサイトでは4巻以降を「改版」としております。
それでは具体的にどの程度変更があるのでしょうか。
旧版が図書館にあったので、パラパラとめくりつつ比較してみたところ、基本的にはそのままの文章で、1ページにつき数カ所ぐらいの頻度で気になった言い回し(かな?)に手を入れてあるという感じです。二カ所ほど抜き出してみると次のような具合です。

[旧]p.8-p.9
「おぬし、なにをきょろきょろしてるんだ」
「すきまがあいているかどうか見ているんだよ。逃げやすいようにな
「どこへ逃げるつもりだ。おぬしなんか三日も前に逃げたって、この孫さまはな、追いついてとっつかまえることができるんだぞ。さあ、とっととしゃべろ・・・
[新]p.9
「おぬし、なにをきょろきょろしてるんだ
逃げるすきまがあいているかどうか見ているんだよ」
「どこへ逃げるつもりだおぬしなんか三日もまえに逃げたって、この孫さまはな、追いついてとっつかまえることができるんだぞ。さあ、とっととしゃべらんかい・・・

[旧]p.9-p.10
ところで師匠は洞の中にいなさったんだが、そこには、うまいぐあいに救いの神もいてね、それが宝象国の国王の三番目のお姫さまなんだが、これまたその妖怪につかまっていたんだ。そのお姫さまは、国王あての書状をしたため、師匠に託したあげく、うまいことを言って師匠を逃してくれた。そういうわけで宝象国に着いたら姫からの書状を手渡したんだが、国王が・・・
[新]p.10-p.11
 師匠は洞の中にいなさったんだが、そこには、うまいぐあいに救いの神もいてね、それが宝象国の国王の三番目のお姫さまときた。これまたその妖怪につかまっていたんだ。そのお姫さまは、国王あての書状をしたため、師匠に託したあげく、うまいことを言って師匠を逃してくれた。そういうわけで宝象国に着いたら姫からの書状を手渡した。国王が・・・

また、第三十一回(第4巻最初の回)冒頭の韻文はそれぞれ次のようになっています。

[旧]p.5                [新]p.5
義理の兄弟 結んだものの    兄弟の契りは結んだ
本性だけはもとのまま       本性だけはのまま
金と木(1)とのコンビにて      金と木とで証果をめざし
めでたく成さん悟りの果
心猿木母(2)気を合わせ      心猿木母(1)は心を一にす
ともに登るは極楽世界       ともに登るは極楽世界
ともに入るは大乗法門       ともに入るは大乗法門
経こそは修行のまとめ       経こそは修行のまとめ
仏の魂こもったものぞ        仏の魂こもったものぞ
兄弟なれば三世の契り       兄弟なれば三世の契り
妖魔とても五行の支配       妖魔とても五行の支配
迷界への道 断ち切って      六門への道(2)を断ち切って
いざ赴かん 西天         さて赴かん西天大雷音寺
()の数字は註

なお、旧版には中野先生の「訳者後記」があり、小野先生のそれまでの訳と方針を改めた点(1.著者を呉承恩としないこと 2.回目を訓読ではなく意訳にすること)などについて書かれていますが、これは新版の4巻にはありません(上記2点などは1巻の「訳者まえがき」で触れられています)。
註は全体的に新版の方がやや少な目になっています。1~3巻に入れて4巻では省いたものもあるのかもしれません。あとは漢字をひらがなにしてあるところも目につきます。
最初の方をパラパラと見たところではだいたいこんな感じです。後ろの方はまた様子が違うかもしれませんが、ひとまずご参考まで。

※ 2016.09.05 Amazonリンク訂正。なお当時は刊行されている途中でしたが、現在では全巻刊行済みです。