2021年を振り返る

2021年も昨年に引き続き、やはりコロナの年でした。ただ、大きな波があったものの、全体的には2020年よりはややよかったのではないかと思います。対面授業も増えましたし。

プライベートもいくつかのアンラッキーがあったものの、それなりに乗り越えられた一年だったと思います。

本も昨年よりは読めました。とはいっても研究に関係しない本は40冊足らずですが…………。一応、恒例の「今年よかった本」を挙げると、小説部門が瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』、辻村深月『スロウハイツの神様』、舞城王太郎『煙か土か食い物』、新書部門が安田峰俊『八九六四 完全版 「天安門事件」から香港デモへ』、中野信子『サイコパス』。『八九六四』の、運動に参加した人たちのその後を語る章は、『水滸伝』の、好漢たちの活躍後を描く部分と同様の感慨があるように思いました。

なお、私の読書傾向は、ほとんど文庫・新書になっているもので、その大部分は電子書籍です。さらに「今年よかった本」は、かなり前に出版された本を含む今年読んだ本から選んでいますので、今更感については何卒ご容赦のほど。

来年は無病息災の年でありますように。
今年同様、何卒よろしくお願いいたします。

  2021/12/31 井上浩一拝

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王應奎『柳南随筆』巻三より「金人瑞」

金人瑞,字若采,聖歎其法號也。少年以諸生爲游戲具,補而旋棄,棄而旋補,以故爲郡縣生不常。性故穎敏絶世,而用心虚明,魔來附之。某宗怕天台泐法靈異記,所謂「慈月宮陳夫人,以天啓丁卯五月,降于金氏之卟者」,即指聖歎也。聖歎自爲卟所憑,下筆益機辨瀾翻,常有神助。然多不軌于正,好評解稗官詞曲,手眼獨出。初批水滸傳行世,崑山歸元恭見之曰:「此倡亂之書也!」繼又批西廂記行世,元恭見之又曰:「此誨淫之書也!」顧一時學者,愛讀聖歎書,幾于家置一編。而聖歎亦自負其才,益肆言無忌,遂陷于難,時順治十八年也。初,大行皇帝遺詔至蘇,巡撫以下大臨府治。諸生從而許吳縣令不法事,巡撫朱國治方暱令,于是諸生被繫者五人。翌日,諸生羣哭于文廟,復逮繫至十三人,俱劾大不敬,而聖歎與焉。當是時,海寇入犯江南,衣冠陷賊者,坐反叛,興大獄,廷議遣大臣即訊,并治諸生。及獄具,聖歎與十七人俱傅會逆案坐斬,家產籍没入官。聞聖歎將死,大歎詫曰:「斷頭,至痛也。籍家,至慘也!而聖歎以不意得之,大奇!」于是一笑受刑。其妻若子,亦遺戍邊塞云。

底本:清代史料筆記叢刊
『柳南随筆 續筆』
王彬・嚴英俊点校
(中華書局、1983年)

玄奘寺刊西川満訳『西遊記』全五冊について

ちょっとおもしろい西遊記が手に入ったのでご報告。

 

台湾中部の有名な観光地である日月潭の近くに、玄奘寺というお寺がありますが、そこが1962年6月に刊行した西川満訳『西遊記』全5冊です。

 

西川満(1908-1999)は、会津で生まれ、幼い頃に当時日本領だった台湾に渡り、台湾で育ち、早稲田大学に進学した後、帰台して台湾日日新報社に入社、文芸雑誌を発行するなど、終戦前の台湾の文壇で影響力を発揮した作家です。戦後は日本で活動しました。

 

彼が書いた「西遊記」は、彼が勤めていた台湾日日新報社から発行された『国語新聞』創刊号(1940.09.25)から「劉氏密」の筆名で連載を開始し、途中病気による休載や紙名の『皇民(みたみ)新聞』への変更などを経て、『皇民新聞』第423号(1943.06.18)にて381話で完結したものが最初です。

 

それに手を入れて、連載途中の1942年2月11日に臺灣藝術社から『西遊記』上巻が刊行されました。『わが越えし幾山河』(人間の星社、1983年)の記述によると(原本が見られないので、中島利郎氏の『台湾の児童文学と日本人』からの孫引きですが)、本来「上」「中」「下」の3冊にするつもりが、「上」巻が出たあとに、売れ行きが良いので全4冊にしてくれと言われ、「上」「元」「燈」「會」の4冊にし、さらに全5冊にしてほしいとこことで「上」「元」「燈」「大」「會」としたそうです。確かに、今回入手した本の、「元」巻(2冊目)に載っている「序」には次のような言葉がでています。

 

宮田彌太朗畫伯は、四冊の装幀として、上の巻に孫悟空、元の巻に猪八戒、 燈の巻に沙和尚、會の巻に三法師を描くといふ。善哉、この四冊を座右に具へ、不斷に四人の繪像を眺めて、われわれも亦、強く、明るく、正しく生きてゆかう。
つまり、この本のもとになった、臺灣藝術社版の2冊目が出た時(1942年5月)は、まだ新聞連載の途中でしたが、全4冊になることが決まった後、全5冊にしてほしいと言われる前の時期だったのでしょう。「大」巻(4冊目)に載っている「序」には次のような言葉がでています。

 

なほこの『西遊記』は、はじめ上元燈會の四巻に致す豫定で居りましたが、四巻ではたうてい収めきれなくなつてしまひました。それかと云つて、 せつかくの面白い物語を省略するのも残念に思ひますので、版元の希望もあり、上元燈大會の五巻に致すことにしました。
この「序」が書かれた連載終了後の1943年秋頃に(6月に終了した連載の分量を見て?)5冊になることが決まったのかな、と思います。

 

臺灣藝術社版全5冊のうち、「」・「」の2冊は、國立臺灣圖書館に所蔵されているようです(未見)。

 

日本への引き揚げ後、これを「百花の卷」「火雲の卷」「草龍の卷」の3冊にしたものが、1947年から1948年にかけて八雲書店から、そして新小説文庫131-133として、1952年に新小説社から刊行されています。ただし、これらは最初から全3冊にする予定ではなかったようで、新小説社文庫版版の「百花の卷」の「あとがき」には以下のように書かれています。

 

わたくしは「百花の卷」「火雲の卷」「草龍の卷」「瑠璃の巻」を編んだのでありますが、これが譯述にあたっては、清の悟一子、陳士斌の評のはいつた、光緒十年、上海掃葉山房版「西遊眞詮」を手もとに置き、この 氣もちのよい木版本を主とし、別に民國廿二年刊の廣益書局の活字本「西遊記」を参考としながら、いたずらに拘泥することなく、自分の思うままに筆を執りました。
ここで挙げられた「瑠璃の巻」は、鳥居久靖氏が「続・我が国に於ける西遊記の流行」で指摘されているように、どうやら刊行されなかったようで、どの目録にも見当たりませんが、3冊目に当たる「草龍の巻」が、原本第77~78回の「比丘国」の話で終わっていることからも、やはり出版予定はあったのだと思われます。

 

刊行された「百花」「火雲」「草龍」も所蔵図書館が少なく、国立国会図書館サーチで見つけられるのは、以下のようにそれぞれ幾つかの図書館のみです。

 

1947.05.30 八雲書店(1: 百花の卷)
1947(?) 八雲書店(2: 火雲の卷)
1948.09.01 八雲書店(3: 草龍の卷)
1952.01.25 新小説社、新小説文庫131(1: 百花の卷)
1952 新小説社、新小説文庫132(2: 火雲の卷)
1952 新小説社、新小説文庫133(3: 草龍の卷)
このうち、「新小説文庫131( 百花の卷)」だけは、私も所有しています。

 

その後、冒頭に述べたように、1962年6月に玄奘寺から刊行されたのが、今回入手した「西遊記」全5冊です。玄奘寺が付けた「序」に書かれた刊行の経緯によると、1961年の初め、台南の王彰さんという方が、「60年前に」「新聞に連載された絶版の日本語西遊記」を持ち込み、それを「東瀛の人士が我が国の名著を鑑賞し、研究する機会とし、さらに仏法の広がりを促進する」ために刊行した、との事です。

 

「60年前に」というのは記憶か印刷の誤りで、実際には20年前のもの。「絶版」とあるので、持ち込まれたのは新聞ではなく、臺灣藝術社版の書籍ではないかと思います。印刷は、後の4冊はあまり問題ないのですが、「上」だけは痛みが激しかったのか、p.224以降の偶数頁、2~4行目の3~15文字目あたりには、かけた部分の文字を後で埋めたため、意味が通じなくなっているところがあります。昔よく商品説明で見かけた、表記を誤った日本語みたいな感じです。

 

なお、その後この本を「上冊」「中冊」「下冊」の3冊にまとめたものが、1989年9月に出版され、日本では東京都立多摩図書館に所蔵されています。私の記憶では、表紙は同じだったと思います。コロナが収束したら、5冊本「上」巻の、読めなくなっている箇所が、3冊本では読めるようになっているのか確認しに行きたいものです。台湾へも『國語新聞』や臺灣藝術社版を探したり、玄奘寺で今でも売っているのか、確認しに行きたいです。もし、情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ともご教示の程、お願いいたします。

 

参考文献
鳥居久靖「続・我が国に於ける西遊記の流行」(中文研究6、1966年)
中島利郎『日本人作家の系譜 日本統治期台湾文学研究』(研文出版、2013年)
中島利郎『日本統治期台湾文学研究 台湾の児童文学と日本人』(研文出版、2017年)

飯塚朗訳『情史 中国千夜一夜物語』目次

馮夢龍『情史』の訳書を探していて、飯塚朗訳『情史 中国千夜一夜物語』(新流社、1947年)を購入しました。
探している時に、どの挿話が収められているのかが判らなかったので、ここに目次を掲載しておきます。

范希周(山賊の妻なれど)
申屠氏(ある漁師の妹)
張小三(娼妓のまごころ)
王善聰(男装の麗人)
趙判院(名妓瞥見)
蘇城丐者(蘇城の乞食)
江情(江上の戀)
劉堯擧(舟子の娘)
紅拂妓(紅拂を執る女)
許俊(柳は風に)
凌延年(遊蕩兒)
杜枚(詩人餘聞)
謝希孟(有情學者)
王 元 鼎 (女ごころは)
長沙義妓(長沙 の 義妓)
啞娼(啞藝妓)
老妓(老妓)
圖形詩(繪畫と詩篇)
寄內詩(妻に寄するの詩)
寒梅(寒梅)
孟姜(長城の恨)
司馬才仲(夢で來る女)
王生(えにしの夢)
西湖女子(西湖の女)
楊玉香(葉末の玉)
心堅金石(心の化石)
雙鶴(めをと鶴)
趙汝丹(戀の道草)
于祐(紅に題す)
非烟(貞操問答)
金山僧惠明(女の復讐)
鉛山歸(嵐の夜話)
蘇子鄕(蘇武餘話)
趙淸献(將軍有情)
散樂女(鳥迫ひ女)
張紅紅(女樂士)
滿少卿 (呪殺された滿郞)
舘陶公主(妃殿下色ざんげ)
魏靈太后(魏の太后)
王鉄(裏からのぞいた役人)
章子厚(男地獄)
林澄(戀塚)
雲英(逢初橋由來)
劍仙(女仙劍の舞)
花麗春(髑骼の化粧)
翠薇 (琴に慕ひ寄った女)
桂妖(桂の精)
菊異(菊の 精)
龍陽君(龍陽石)
朱凌谿(朱凌谿)
譚 意 歌 (うき川竹)
雁(雁の話)
燕(燕の話)
虎 一(虎の話其の一)
虎 二(虎の話其の二)
情盡橋(柳橋)
狂燭(狂燭)
醉輿妓圍(醉輿と妓圍)


2020年を振り返る

2020年はコロナの年でした。私が受けた影響としては、授業が遠隔になったことが一番大きいでしょうか。これについては、前期の終わりに「遠隔授業の1日」に書きましたが、起きている時間の大部分を、授業資料の作成か添削に費やす毎日になりました。

後期からは4つの大学のうち、2つの大学、コマ数で言うと1/3弱の授業が対面に切り替わったので、前期よりは少し状況が改善しました。特に、週に1回とはいえ通勤のためにしっかり歩く時間ができた事は、健康面においては良かったと思います。

しかし、対面授業を行った1つの大学は、12月初めに感染者が出て1度遠隔授業に変更され、もう一つの大学は12月の授業が終わった翌々日にクラスターが発生し、1月の授業が遠隔になることが決まりました。

後者の大学でクラスターの発生が分かったのが12/24。文部科学省が12/23に「対面授業が50%以下の大学リスト」を発表した翌日だというのがなんとも皮肉ですが、それはともかく、感染された方々が無事に回復し、授業に戻って来られることを願っております。

対面授業先でクラスターが発生した以上、私自身も絶対感染していないとは言えないのですが、今のところ濃厚接触者に該当する等の連絡はなく、ひたすら冬休み明けの準備に追われていて(というかそもそも冬休みが1週間しかない)、今日(大晦日)も明日(元日)も普通に仕事をする年末年始となりました。

研究面では、昨年末(ということになっていますが、実際には今年刊行。でも書いたのは去年)、自分の専門領域では初の共著論文を出しましたが、その後は授業準備・添削に追われる生活で、春休みに日本語訳西遊記の調査と整理をして以降は、まったく研究が進まない1年でした。

今年度から、東北大学の非常勤講師をしている部局が研究面のサポート(科研費の窓口としての業務等)を行わないことになり、哀れに思った国際文化研究科が、私を「GSICSフェロー」とし、研究面のサポートをしてくださることになったのですが、今年は研究が進められず、申し訳ない限りです。

また、今年度から、U-PARL(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門)協働型アジア研究プロジェクトの、荒木達雄氏を代表とする「東京大学所蔵水滸伝諸版本に関する研究」のグループに参加させていただいています。こちらもコロナの影響で会合が少なく、それもネットによるもののみでしたが、水滸伝関係でご活躍中の先生方のお話を聞かせていただいて非常に勉強になり、楽しかったです。プロジェクトの期間はもう1年ありますので、次回も楽しみです。

最後に、これも例年振り返っている読書記録ですが、そもそも読書があまりできていないため、今年は良かった本を1冊だけ挙げておきます。

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大学改革の迷走 (ちくま新書 1451) [ 佐藤 郁哉 ]
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話題になった本なので、既に読まれた方が多いかとは思いますが、大学で働く人で、まだ読まれていない人は一読されることをお勧めします。色々と腑に落ちることがあるかと思います。

長くなりましたが、皆様、何卒お体に気をつけて、よいお年をお迎えください。
来年は活発に活動できる年になることを祈りつつ。

井上浩一 2020年大晦日