三国志演義の世界

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 唐宋伝奇の講義を終えたら、いよいよ白話小説。まずは『三国志演義』です。

 『三国志演義』を概説した必読書といえば、金文京『三国志演義の世界』(東方書店)ですが、この本、今年五月に増補版がでています。
 1993年に出た初版との違いについて、金先生は「再版あとがき」で、

再版では、この十七年間における研究の進展をできるだけ反映させるとともに、韓国語版で増補した日本と韓国における『演義』受容の状況を、第九章としてあらたに書きたした。ただし韓国語版を全面的に改稿したもので、内容は同じでない。

と、書かれています。ちなみに、第九章タイトルは「東アジアの『三国志演義』」で「朝鮮半島の『三国志演義』」「日本の『三国志演義』」「『三国志演義』主要テキスト一覧」の三項から成り立っています。

 また、目次を見ると、第七章「『三国志演義』の出版戦争」に「『三国志演義』と受験参考書」という項目があり、これも書き足された部分だと思われます。

 試みに、第二章「『三国志』と『三国志演義』…歴史と小説」(p.16-52)に、ざっと目をとおしてみますと、5,6箇所ほど初版と異なる箇所が見つかりました。例えば初版で、

『演義』の現存するもっとも古いテキストである明代の嘉靖本『三国志通俗演義』では、…(p.25)

と、なっている箇所が、増補版では、

『演義』の現存するもっとも古いテキストである明代の嘉靖元年序刊の『三国志通俗演義』(従来、この本は嘉靖本とよばれてきたが、本書では同じく嘉靖年間刊行の葉逢春本と区別するため、以後、序文作者の名をとって張尚徳本とよぶことにする)では、…(p.21)

となっていますが、これなどは「あとがき」でいう「研究の進展を反映」させた箇所でしょう。

 他には初版で、

それは『魏書』という書物に見える話で、そこでは呂伯奢の家族が曹操をおどして、馬と荷物をとったので、曹操はやむなく彼らを殺したということになっているのである。先の話とはまるであべこべであろう。 / 『三国志』の注は両説を並記するだけで、どちらが正しいとも言っていない。しいて言えば、先にあげた『魏書』の方に重きがあるであろうか。しかし『演義』は後者の話の方をとった。その理由は説明するまでもないであろう。(p.41)

と、なっている箇所を増補版では、

それは王沈の『魏書』に見える話で、そこでは呂伯奢の家族が曹操をおどして、馬と荷物をとったので、曹操はやむなく彼らを殺したということになっているのである。先の話とはまるであべこべであろう。『三国志』の注は両説を並記するだけで、どちらが正しいとも言っていない。しかし王沈の『魏書』は、曹操や魏に都合のよい記述が目立つ書物であり、『演義』がこれを採らなかったのは当然であろう。(p.37)

と、するように、初版と説明を変えたり、丁寧にした箇所がいくつかありました。

 本文の活字も少し大きくなっており、全体的に読みやすくなった印象です。
なお、貫華庵>ネット目録>三国志演義>関連書籍の項にも、この「増補版」を入れておきました。

※ 2016.09.06 Amazonリンク訂正