漢文法基礎

 今から二十数年前の高校時代、部活が忙しくて、塾などに通っていなかった私は、Z会の通信添削で受験勉強をしていました。受験勉強をしていたといっても、添削教材をやらずにどんどんため込んでしまうような不真面目な会員だったのですが、教材自体はとても気に入っており、参考書もZ会のものを使っていました。
 その中でも特に記憶に残っている参考書が、二畳庵主人『漢文法基礎』です。説明が詳細かつ的確なだけではなく、文章も面白くて、参考書というよりも愛読書という感じでした。中国文学専攻に進んだこともあり、受験が終わっても大学時代の下宿には持っていったような気がするのですが、いつのまにかどこかへ行ってしまい、非常に残念に思っていました。それが今回講談社の学術文庫で出版されるときき、早速購入してみてびっくり。二畳庵先生って加地伸行先生だったのですね。もしかして有名な話?
 久しぶりに読んでみると、やはり懐かしい。本文前の山村暮鳥《ある時》にはじまり、和文脈と漢文脈(p.21)、出題率による入試問題予想に対する批判(p.24)、「レ」は「れ点」ではなく「かりがね点」(p.66)、連文・互文(p.142)……そうそう、憶えていますよ。
一方で、記憶に無かった箇所もやはり結構あります。例えば、「若……然」の説明。

 ところで「若……然」というタイプがある。例えば、

  若視其肺肝然

という文。(中略)「其の肺肝を視るがごとくしかり」と読むことになる。「その肺肝を視るのしかるがごとし」と読んではいけない。(中略)興味深いことに、現代中国語にもそれが投影されている。(中略)例えば、

  好像飛機一様(「飛機」は「飛行機」のこと)

は、「好(あたか)も飛機に像(かたど)りて一様なり」或いは「好(よ)く飛機に像りて一様なり」「飛機に像ることを好くして一様なり」とでも訓読できるタイプで、「若飛機然」(飛機のごとくしかり)と同じようなものである。(p.188-190)

新たに加えられた箇所なのか、当時は中国語がわからなかったので、あまり解りやすくなかったのか、今読むと非常にわかりやすい説明だと思うのですが、記憶にありませんでした。
 研究対象を明清白話小説にしてからは、資料をほとんど中国語読みするので、漢文訓読の機会は少なくなっておりますが、これを機に、懐かしがりながら復習してみたいと思います。

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