[amazonjs asin=”4004311276″ locale=”JP” title=”中国の五大小説〈上〉三国志演義・西遊記 (岩波新書)”]
井波律子先生の『 中国の五大小説 上 』(岩波新書、2008.04)を読みました。
これは、その名のとおり、井波先生による中国の五大小説(四大奇書+紅楼夢)のガイド。
上巻は 『 三国志演義 』 と 『 西遊記 』 を扱っています(ネット目録では、両書の関連書籍の項に入れてあります)。
カバーの見返し部分の宣伝文句に、
一度は通して読んでみたかったあの物語を、練達の案内人と共に楽しむ。
とあるように、『三国志演義』や『西遊記』のストーリーを概説しつつ、ガイドしていく形式になっています。なので、それぞれの作品について熟知している人よりも、まだ読んでいない人や、以前読んだけど細かいところは忘れた、という人に向いているかもしれません。
ガイドの性格はどのようなものかといいますと、ストーリーや場面に関連する知識を述べる部分もあるのですが、それ以上に、作品のどこに面白さがあるのかを述べることに力点が置かれているように思います。例えば、 『 西遊記 』 は 「 一話完結、繰り返し(p.176)」で物語が構成されています。これは見方によっては単調な構成と見ることもできそうですが、著者はこれを面白さの原因と見ます。
こうしたパターンの繰り返しによって話をすすめていくというのは、読み手を楽しませるための、語りの基本的なテクニックです。たとえば、日本の昔話「わらしべ長者」は、ワラを一本もって歩く一人の男が道の途中で誰かに会い、持ち物を交換してもらうというパターンの繰り返しでできています。これが予定調和の物語だからこそ、読み手は最終的には安堵感を抱きながらも、「次はどんな人に会うのか」「次は何をもらえるのか」「いったい最後はどうなるのだろう」と、ワクワクとその展開を楽しめるのです。『西遊記』の語りの面白さもまさにこういうところにあります。(p.177)
このように作品の「面白さ」がどこにあるのかを指摘しながら、ストーリーや名場面を紹介していくというのが本書の基本的姿勢だと思われます。
なお、最後の部分に、中国小説全体の特徴について述べた箇所があります。
具体的には
・ 登場人物の性格が成長しない
・ 登場人物の関係性を描くことが重視されている
・ 登場人物の内面はあまり描かれず、外在的要素(役割・行動形態・
容姿・得意技など)を中心とした描写がされる
というような点が指摘されており、内容的にはこれまでにも言われていたことではあるのですが、解りやすく、手際よく説明されている点はさすがだと感じました。
※ 2016.09.06 Amazonリンク訂正。