今回も、過去2回と同様、雑誌『新小説』28巻8号(大正12年8月)に掲載された「緑蔭雑筆」から、「碁鬼」という賭け碁で死後も身を滅ぼした男の話です。原題は「棋鬼」。『聊斎志異』巻四に収められています。
綠蔭雜筆 伊藤貴麿
碁鬼
揚州の梁公といふ將軍が、官を辭して鄕里に住つて、近所を廻つて每日酒を飮んだり、碁を打つたりして居た。丁度九月の九日の日、客と切りに黑白を戰はして居ると、一人の男がやつて來て、盤の側に立つて、熱心に見惚れて居た。容貌はやつれ襤褄を纏つて居たが、樣子が何となく奧床しく、文人のやうに思はれたので、公は叮嚀に座席を進めると、其の男も叮嚀に挨拶した。そこで公は、碁盤を指して曰つた。
「先生もきつと此の道をおやりになるのでせう。一番客人とお差しになつては。」
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