今回は、前回の「王桂菴」と同じく、雑誌『新小説』28巻8号(大正12年8月)に掲載された「緑蔭雑筆」に収められた話の中から「三生」を載せます。三度の前世を憶えている男の話です。
綠蔭雜筆 伊藤貴麿
三生
湖南の某は能く前生三世を憶えて居た。第一世は役人となり或る時試驗官として、場に臨み、受驗生の文を採點した事があつた。其の時興と云ふ書生があつて、試驗を受けて落第し、憤懑の極死んで陰司に行き、訴狀を作つて閻王に訴へた。時恰も同病死者數萬陰府に滿みて、興の訴狀の一度投ぜられるや、聚散成羣して興を首とし、鬼嘯陰 殷々として閻羅府を動かさんばかりであつた よつて湖南の某は地獄に引かれて、閻王の前で對質訊問せられる事になつた。
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