伊藤貴麿関連資料6番目も『聊斎志異』の翻訳です。今期は「勞山道士」。しばらく『聊斎志異』の翻訳を載せていこうと考えています。
さて、この翻訳は『住宅』という雑誌に1922年8月に掲載されました。『住宅』は基本的には大人向けなのですが、家族全体で読まれることを想定していたのか、童話がよく掲載されていました。この「労山道士」も「童話」として掲載されており、私が今まで見た中では、伊藤貴麿の童話(児童向け読み物)の最も早いものです。
同じ月には以前に掲載した「聊齋妖話」(「胡四姐」「畫皮」の2編)が雑誌『新小説』に掲載されており、この時期『聊斎志異』がマイブームだったのかもしれません。
勞山道士 伊藤貴麿
私の村に王生と云ふ者があつた。彼は或る舊家の七男で、若い時から道を慕つて居た。或時、勞山に多くの仙人が居るといふ事を聞いて、笈を負ふて修道に出かけた。頂に登つて見ると、一つのお堂があつてなかなか幽邃である。一人の道士が薄團の上に坐つて居た。長い髮がうなじ迄垂れて、顏色さわやかである。王生はお辭儀をして、一緖に話して見ると、甚事理に徹して居るやうであつたから『どうかお師匠樣になつて下さい。』
と、王は賴んだ。すると道士は云つた。
『お前さんは懶け者らしいから、恐らく苦業が力まるまい。』
『いえ、大丈夫で御座います。』
と王は答へた。 “伊藤貴麿関連資料(6)「勞山道士」” の続きを読む