伊藤貴麿関連資料の5回目は、今回も翻訳で、講談社の絵本177『菊姫物語』(大日本雄弁会講談社、1957年)から「菊姫物語」です。絵本なので本当は絵があった方がいいのですが、絵(石井健之)は著作権が残っていますので、文のみ掲載します。
原作は『聊斎志異』の「黄英」ですが、特に途中からは、かなり話が違いますので、原作と読み比べてみるのも良いでしょう。この話の原文どおりの翻訳は、岩波文庫の『聊斎志異』下(立間祥介編訳)に収められています(p.377)。
なお、伊藤貴麿はこの本の解説で、『聊齋』について
この本は、恐ろしい話ばかりにみちていると思っている人もいますが、なかなか純情な妖精の話も多く、この「黄英」ほか、「竹青」「花姑子」など、蒲松齢の筆になる妖精類には、暖かい血がかよっていて、そこが同類の中国小説中でも特にすぐれた点であります
と、述べています。
菊姫物語 伊藤貴麿
p.2
ちゅうごくの じゅんてんと いう ところに、ひとりの おじいさんが すんで いました。おじいさんは、かわいい ひとり むすめの すいらんを なくして、たいそう かなしんで いました。
おじいさんは、まえから、きくを つくるのが たいへん じょうずでしたから、あるひ、ふと きくを つくって こころを なぐさめようと おもいたちました。そこで、めずらしい たねを かいに、はるばる ナンキンへ でかけました。
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