この章では、「河童の沙悟浄」が児童書西遊記の中で、いつ、どの程度定着したのかを調査し、さらにその時期に定着した理由について考察を加えました。
まず、児童書西遊記全体について言えば、沙悟浄を河童とするものは意外に少なく、調査した児童書西遊記全体の4分の1から3割程度であることが、調査によって明らかになりました。
次に沙悟浄を河童とする書籍の比率(河童率)を年代別に見てみると、1980年代から上昇していることが判りましたた。そこで、次にその理由について考察を加えました。
まず、外的要因、つまり児童書の外部の要因として、1980年代直前にTVにおいて西遊記ブームがあったことが考えられます。それらの番組の中で、沙悟浄は河童とされており、沙悟浄から作られたキャラクターは河童との関連をにおわされていたのです。それらの影響を受けて児童書西遊記でもこの時期に河童率が上昇した可能性は十分に考えられるでしょう。
一方、内的要因、つまり児童書側の河童率上昇要因もありました。それは、アニメ絵本や読み聞かせ本など、話を極めて少ないページ数にまとめた本の流行です。これらの本では、西遊記全体の長大な文章を、少ないページ数に収めるために、大幅に手を入れています。そして手を入れれば入れるほど、言い換えれば、原文をそのまま訳したような翻訳から離れれば離れるほど、設定の変化は起こりやすくなるものです。それに、沙悟浄を簡潔に紹介するためには「河童」としてしまった方が簡単です。その為にこれらの本では沙悟浄を河童とする率が極めて高くなっているのであろうと考えられます。
以上の、内外両面の理由から、現在では半数以上の児童書西遊記が沙悟浄を河童としています。そして、それが児童書西遊記読者の沙悟浄イメージにも影響を与えているのではないかと考えられるのです。