貫華日記Ⅱ

伊藤貴麿関連資料(15)「漁夫許の話」

「劉孝廉の話」(『新小説』30-1、大正13年)の最後に収められているのが、今回の「漁夫許の話」。『聊斎志異』巻一の「王六郎」を訳したもので、漁師と霊(後に神)との友情のお話です。

劉孝廉の話     伊藤貴麿

漁夫許の話

 許といふ姓で、淄の北郭に住んで居る者があつた。漁りを業として、毎夜酒を擕へて河頭に行き、飮み且漁りをするのであつた。彼は飮んだ時は必ず少量を地にあけて、祈つて曰つた。
「さあさあ、河中に溺れた人達もお飮みなさい。」
 殆ど以上の事を缺かさなかつた。そして、他の者に鳥渡も漁のない時でも、許には、籃一ぱい獲物の有るのか常であつた。
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