本章では、日本で出版された児童書西遊記のうち、ページ数の少ないものについて、どの挿話が、どのような採用パターンで用いられているのかを検証しました。そしてその結果、以下のことが明らかとなりました。
まず、比較的よく採用されている挿話は、孫悟空が玄奘に弟子入りする以前の部分では、
- 孫悟空が花果山の王となる
- 仙術を学ぶ
- 如意金箍棒を手に入れる
- 天の役人となるも、天界を荒らして天兵らと戦う
- 釈迦如来によって五行山に封印される
などの話です。
その後の部分では孫悟空・猪八戒・沙悟浄の弟子入りの話が多く採用され、天竺に着いて取経に至る場面もよく採用されています。これらの話は西遊記の構造を成す挿話であるといえます(本稿ではコア・ストーリーと呼んでいます)。それ以外の部分は、比較的増減が自由なのですが、その中では金角・銀角や、牛魔王の挿話がよく採用されており、それに次いで人参果・白骨精と黄袍怪・通天河の話がよく採用されています。
これらの挿話を児童書として纏めるパターンとしては、孫悟空の誕生から、妖怪退治を経て取経まで全体的に採用する方法と、どこか一部分を採用する方法とがありますが、これらは共に半数程度ずつ行われています。
一部分を採用するパターンでまとめられた作品は、いわゆる続編を除けば、1945年の終戦以前には孫悟空が玄奘に弟子入りするまでの挿話を中心として採用するものがほとんどでした。しかし時代が下るにつれて減少し、近年は逆に悟空・八戒・悟浄らの弟子入り以降の部分のみを採用するものが増加しています。
このことから、児童書の世界では、以前は西遊記といえば孫悟空が天界で暴れ回る物語というイメージが強かったものが、近年は玄奘一行の取経の旅を描く物語というイメージが強くなっているのではないかと考えられます。