西遊記と児童書

 西遊記が中国小説の中で、特に児童書向きであることは、皆さんなんとなく感じているのではないかと思います。ある研究者は、論文に「一般に出版されている西遊記はほとんど児童書」とまで書いているほどです(論拠は挙げてないですけど)。

 実際に国立国会図書館のサイトで「西遊記」と入力して検索をかけてみると、三千百七十六件の「本」の中で五百二十八件(十六%)が「児童書」です(二〇一四年九月二七日現在)。意外と少ないと思われるかもしれませんが、「一般に出版されていない」本、例えば学術書なども入っているわけですから、一般向けに限定すれば、もっと割合は高くなるでしょう。ちなみに他の中国小説を調べてみると、「三国志」が七千八百件中四百二十五件(五%)、「水滸伝」が四千九十六件中百九十一件(五%)ですので、それに比べれば、やはり児童書の比率は高いといえます。

 この点、つまり日本で刊行された西遊記の中で児童書の役割が大きいことは、なんとなく感覚として分かっていたという方も多いと思います。しかし実は、逆に児童書の中でも西遊記は特別な地位を持っています。

 それを示すのが、毎日新聞が実施している「学校読書調査」に基づくデータです。ざっくり言うと、子供達に読まれている本ベスト20といったもので、これを五年毎にまとめた表が『図説 子どもの本・翻訳の歩み事典』という本に掲載されています。

図説 子どもの本・翻訳の歩み事典

 その「小学校男子の部」によると一番最初の一九五五年に読まれていた児童書は「古典的作品」に分類されるものが多く、西遊記の他、宝島・ピノキオ・ガリバー旅行記・十五少年漂流記・ピーターパン・ああ無情...等々十四作品ありました(三十二作品中。全然ベスト20じゃないですが、同率のものが多かったのでしょう)。その後も一九六〇年が十二作品、一九六五年・一九七〇年が十七作品としばらく「古典的作品」の優位が続きます。ところが、一九七五年に十作品に減ると、一九八〇年・一九八五年が五作品、一九九〇年・一九九五年が四作品と減り続け、表の最後となる二〇〇〇年には三国志(一九八五年からランクイン)一作品だけになってしまいます。その中で西遊記は一九五五年から一九九五年までの四十年間ランクインし続けており、「古典的作品」の中では、最も長期間読まれ続けていたことになります(次点は宝島の三十年)。

 つまり、西遊記は児童書において「最も長く愛されてきた古典的作品」であり、西遊記の中で児童書が重要なだけではなく、児童書の中でも西遊記はなかなか重要な位置を占めてきたのです。

 なお、「学校読書調査」では、西遊記は表に記載されている最終年度の二〇〇〇年にランクから外れ、その後のことはこの本には載っていないのですが、雑誌「学校図書館」(全国学校図書館協議会)の二〇一一年の調査では、小五・小六・中一男子の部でランクインしており、現在でも「愛されている古典的作品」の一つに数えてもいいのかもしれません。