前回は、妖怪退治部分の中で最もよく採用されている5つのお話があると言いましたが、今回はその5つの挿話のあらすじをお話したいと思います。
1位 C11 金角・銀角
まず、最もよく採用されているのは、金角・銀角が登場する、平頂山のお話です。これは原作西遊記の通行本(最もよく普及した版本)である『西遊真詮』でいうと、第32回~35回にかけてのお話です。また、玄奘三蔵はお経を得るまでに9x9=81の災難をイニシエーションとして経なければならないのですが、このお話では第24難「平頂山で魔に逢うこと」と第25難「蓮花洞で高くつるされること」という2つの災難にあうことになります。
平頂山蓮花洞に住む妖怪金角・銀角は、玄奘の肉を食べると長生きできると知り、子分に一行を待ち伏せさせます。そこへ猪八戒が偵察に来て、その子分たちに捕らえられます。次に道士に化けた銀角が玄奘を騙し、悟空の上に三つの山を載せて押しつぶし、その隙に玄奘たちを連れ去ります。山の下から抜け出した悟空は、返事をした者を吸い込んでしまう瓢箪を金角・銀角の子分から騙し取り、金角・銀角の母親に化けて蓮花洞に乗り込みますが、正体がバレて捕まってしまい、瓢箪も取り返されてしまいます。逃れた悟空は偽名を名乗って再度乗り込みますが、今度は呼ばれて返事をしてしまい瓢箪に吸い込まれてしまいます(偽名でもダメなんですね)。瓢箪から逃れた悟空は、瓢箪を偽物とすり替えておいて銀角と対決し、瓢箪の中に銀角を吸い込みます。これに怒った金角は悟空と闘いますが、最後にはやはり悟空が金角も瓢箪に吸い込んでしまいます。三蔵を助け出し、一行が出立しようとすると、太上老君が現れ、瓢箪と金角・銀角を返すように言います。実は瓢箪は太上老君のもちもので、金角・銀角は太上老君の金・銀の炉の番をする童子だったのです。
2位 C21 火焔山の牛魔王
これは原作第59回~61回のお話で、玄奘は八十一難のうち、第47難「火焔山が道を阻むこと」・第48難「芭蕉扇を求め取ること」・第49難「魔王を収め縛すこと」にあうことになります。
玄奘一行が天竺に向かっていると、途中に火焔山という燃える山が行く手を塞ぎます。この山の火を消す為には芭蕉扇といううちわが必要なので、孫悟空はこれを持っている羅刹女に借りに行きます。ところが羅刹女とその夫牛魔王は、以前観音様の力を借りて降伏させた紅孩児の両親で、悟空たちを怨みに思っており、芭蕉扇を貸してくれません。そこで悟空は羽虫に化けて羅刹女のお腹に入り、暴れ、脅して芭蕉扇を奪い取りますが、奪い取った芭蕉扇は偽物。悟空は羅刹女の夫の牛魔王(昔友達だった)にも助けを求めますが、やなり協力は得られません。そこで悟空は牛魔王に化けて羅刹女を騙し、芭蕉扇を奪います。ところが今度は牛魔王が猪八戒に化けて悟空を騙し、芭蕉扇を奪い返します。そして孫悟空と牛魔王はとうとう闘いによって雌雄を決すことになります。何度かの闘いを経て、神兵の助けも得た悟空が牛魔王を下し、ようやく芭蕉扇を借りることができました。そして、芭蕉扇によって火焔山の火を消し、旅を続けることができたのでした。
3位 C09 人参果
原作第24~26回、第18難「五荘観の中でのこと」・第19難「人参を活かし難いこと」のお話です。
玄奘一行は万寿山という山にさしかかります。この山中の五荘観という道教のお寺に鎮元子という道士が住んでいました。鎮元子は自分の留守中に玄奘が通りかかることを知り、五荘観にある「人参果」という、赤ん坊の様な見た目の果実を差し上げるよう弟子にいいつけます。ところが玄奘は赤ん坊だと思って食べず、一方で悟空たちは自分たちには人参果が出されないので、樹になっているのを盗み食いします。それが鎮元子の弟子たちに見つかり、責め立てられて腹を立てた悟空は、人参果の樹を倒してしまいます。そこで弟子たちは玄奘一行を部屋に閉じ込めますが、悟空が術を使い、一行は逃げ出します。ところがその後鎮元子が帰り、玄奘一行を捕らえてしまいます。鎮元子は玄奘を処刑しようとしますが、悟空は何度も師匠の身代わりになり、術で刑罰を防ぎます。感心した鎮元子は人参果の樹をもとどおりにすれば、一行の罪を赦すといいます。悟空は薬を求めて天界を探し回り、最後には観音菩薩の力を借りて人参果の樹をもとどおりにしました。
4位 C10 白骨精と黄袍怪
原作第27~31回、第20難「心猿を貶し退けること」・第21難「黒松山ではぐれること」・第22難「宝象国に書をもたらすこと」・第23難「金鑾殿で虎に変えられること」を経るお話です。ちょうど3位の人参果と1位の金角・銀角とを繋ぐ箇所になります。
白虎嶺という山で、玄奘の肉を喰らおうと、白骨精という妖怪が女・お婆さん・お爺さんに次々化けて近づきますが、全て悟空が見破り、最後にはこれを打ち殺します。ところが、悟空は妖怪ではなく人を殺したのだと八戒が騒ぎ立て、それを真に受けた玄奘は緊箍呪(頭の輪っかが締まる呪文)を唱え、悟空を破門してしまいます。その後、悟空無しで旅を続けた玄奘は、黄袍怪という別の妖魔に捕らえられてしまいます。それを、黄袍怪にさらわれて妻となっていた宝象国の王女百花羞がとりなし、玄奘は逃がしてもらいます。玄奘は西へ向かい、宝象国の国王に百花羞から預かった手紙を届けます。百花羞が妖魔にさらわれていることを知った国王は、八戒と悟浄に王女を助けてくれるよう頼みます。二人は黄袍怪と戦いますが、八戒は逃げ、悟浄は捕らえられます。黄袍怪はイケメンエリートに化けて宝象国へ行き、玄奘こそが王女をさらった虎だと言い、妖術で玄奘を虎に変えてしまいます。玄奘の危機を知った白馬が黄袍怪に挑みますが勝てず、八戒に悟空を呼んでくるよう頼みます。八戒は黄袍怪が悟空を侮っていると嘘をついて怒らせ、悟空は玄奘を助けに向かいます。闘いの末、悟空は黄袍怪を打ちますが、黄袍怪は姿を消してしまいます。悟空が天界へ行き、調べてもらったところ、黄袍怪の正体は二十八宿の星官の一人、奎星であることが判り、奎星は天界に連れ戻されます。悟空は虎になった玄奘を人に戻し、また一緒に旅をするのでした。
5位 C16 通天河
原作第47~49回、第36難「路で大水にあうこと」・第37難「身が天河に落ちること」・第38難「魚籃が身を現されること」を含むお話です。
ある夕暮れ時、一行は通天河という大河に行き当たります。宿を借りようとした陳家で、童男童女を人身御供として要求し、それを食べる霊感大王の話を聞きます。悟空と八戒は人身御供の子どもに化け、身代わりになって霊感大王に会い、八戒がこれを打ちますが、通天河に逃げられてしまいます。翌日、霊感大王は通天河を凍らせます。歩いて河を渡れると聞き、先を急いだ玄奘が河を渡っていると、霊感大王は氷を割り、一行を河に落とし、玄奘を捕まえてしまいました。悟空・八戒・悟浄は霊感大王を討とうとしますが、勝てないとみた霊感大王は水中の宮殿に引きこもってしまい、出てこようとしません。悟空は観音菩薩に助けを求め、菩薩はかごを編んでその中に霊感大王を捕らえました。霊感大王の正体は菩薩の池の金魚だったのです。悟空は玄奘を助け出し、宮殿を霊感大王に奪われていた大亀が一行を甲羅に乗せて河を渡らせてくれました。
以上、人気挿話のあらすじでした。ただ、やはり描写あってこその面白さですね。悟空が妖怪を騙す話はよく出てきますが、一体どうやって騙したのか、戦闘の場面ではどう戦ったのか、など、あらすじだけではわからない、気になるところがたくさんあるのではないかと思います。この機会に翻訳でも児童書でもかまいませんので、是非お読みいただければ幸いです。
次回からは、これらのお話を含め、たくさんある西遊記の挿話が、どのような組み合わせ(採用パターン)で児童書としてまとめられて来たのかについて述べていきたいと思います。