伊藤貴麿関連資料(3)「胡四姐」

伊藤貴麿関連資料の3回目。今回は雑誌『新小説』第27巻8号に掲載された「聊齋妖話」から「胡四姐」です。
「聊齋妖話」は、その表題のとおり、『聊齋志異』を訳したもので、この話と「畫皮」が訳されています。今回はそのうち、「胡四姐」の部分のみを掲載しました(「畫皮」は次回)。
なお、踊り字(繰り返し記号)は通常表記にし、Unicodeに無い異体字は正字を使用しましたが、それ以外は原文どおりです。

聊齋妖話     伊藤貴麿

胡四姐

 泰山の尙生と云ふ靑年が、獨り靜かに書齋に籠つて居た。恰度頃は秋の夜で、銀河は高く澄み、明月は耿々として天に懸つて居たので、彼は花蔭を俳徊して、切りに空想を恣にして居た。と忽然として一人の女が垣を踰えて來て、
「秀才《あなた》は何をそんなに考へて被居るの。」
 と云つて、につこりした。彼がよく視ると、其の姿の美しいこと、まるで仙女のやうだつたので、非常に喜び、書齋に連れ込んで懇ろになつて了つた。 “伊藤貴麿関連資料(3)「胡四姐」” の続きを読む